ホーム > クラゴンの常識を圧倒的に覆す上達とパフォーマンスの謎に迫れ!~パフォーマンス分析編(7)~(2014.07.09 掲載)

クラゴン

2013年ニュルブルクリンクレースを語る 高岡英夫×クラゴン×藤田竜太鼎談

  • 高岡英夫
  • 高岡英夫
    運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、人間の高度能力と身体意識の研究にたずさわる。オリンピック選手、企業経営者、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」をはじめ「身体意識開発法」「総合呼吸法」など、多くの「YURU PRACTICE(ゆるプラクティス)」を開発。運動総研主催の各種講座・教室で広く公開。一流スポーツ選手から主婦、高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。地方公共団体の健康増進計画などにおける運動療法責任者もつとめる。東日本大震災後は復興支援のため、ゆる体操プロジェクトを指揮し、自らも被災地で指導に取り組む。著書は『究極の身体』(講談社)など100冊を超える。
  • クラゴン
    レーシングドライバーとして世界最高峰のサーキット、ドイツ・ニュルブルクリンクでのレースで活躍するなど、専門筋をうならせる傍ら、ドラテク鍛練場クラゴン部屋を主宰し、一般ドライバーの運転技術向上にも取り組む。「クラゴン」は日本自動車連盟に正式に登録したドライバー名。ゆるトレーニング歴は約13年。2012年6月のVLN4時間耐久レースで、日本人レーサー史上初のSP4Tクラス優勝を果たす。本場ヨーロッパのレーシング界において、常識を圧倒的に覆す上達と結果を出し続けている。
  • クラゴン
  • 藤田竜太
  • 藤田竜太
    自動車体感研究所(ドライビング・プレジャー・ラボラトリー)所長。自動車専門誌の編集部員を経て、モータリング・ライターとして独立。90年代は積極的にレースに参戦し、入賞経験多数。ゆるトレーニング歴も10年以上で、某武道の指導者という顔もある。

クラゴンの常識を圧倒的に覆す上達とパフォーマンスの謎に迫れ!
 パフォーマンス分析編(7) (2014.07.09 掲載)

どんなトレーニング法と言えども、具体的種目の本番の術技よりは優しくできている

高岡 「長座腕支え」系だろうね。

クラゴン そっか~。あれは座るという姿勢で行うことが、モーターレーシングのトレーニングとして格別な意味があるのかもしれませんね。

高岡 私は最近、どの講座の中でも、できるだけ「長座腕支え」を皆さんにやってもらうようにしているんだ。しかも、かなり細かいところまで指導するカタチでね。
 「肘抜き」「肩抜き」「鼻毛抜き」とかね(笑)。

クラゴン・藤田 (笑)。

  • 2013年ニュルブルクリンクレースを語る
  • 「長座腕支え」系のメソッドでは、
    肘、肩、体幹をとことん抜いていくのがポイント

高岡 棒上軸乗芯にも、「抜く」鍛錬というのは、ものすごくたくさんあったでしょ。

藤田 はい。

高岡 しかしながら、棒上軸乗芯のメソッドで、体幹を抜いていくというのは、じつに難しいことなんだよ。
 でも、すごく難しいとはいえ、レーシングカーのシートに座って、サーキットを走りながら体幹を抜くよりははるかに簡単だ。
 だって、棒上軸乗芯はトレーニング法だからね。
 トレーニング法は、そのトレーニング法が何を要求していて、何を言わんとしているのかを、その人のレベルなりにつかめてくると、その学習によってすごく難しく感じられるはず。
 とはいえ、どんなトレーニング法と言えども、レースならレースという競技、種目の本番の術技よりは絶対に優しくできている。
 なぜって、トレーニングが本番よりも難しかったら、トレーニングにならないだろ(笑)。

クラゴン・藤田 はっはっはっは(爆笑)。

クラゴン まったくその通りですね。

高岡 私の場合、「キミの専門種目は何? その最終パフォーマンス形態を見せて」「あっ、そういうことをやっている人なんだ。ふ~ん」と言って、その本番のパフォーマンスが、できるだけ簡単に向上するメソッドを考案するのが仕事でしょ。
 そうした優しくて、なおかつ非常に効果の上がるメソッドを作るためには、レースならレースという種目に必要な非常に重要な能力・因子と論理構造とが、完全に対応していなければならないので、なかなか容易なことではないんだけどね。

クラゴン そこまで考え抜かれていたからこそ、「長座腕支え」は効くんですね~。

腕と脚は、あるレベル以上で使えるようになると「四肢同調性」を起こす

高岡 それから「足足系」の数々のメソッド、これの効果も相当あるよね。クラゴンもざっと5~6種類ぐらいの「足足系」トレーニングは、毎日欠かさずやっているだろ?

クラゴン はい。「足足系」も大好きで、日課にしております。

高岡 これが大きく役立っているのは間違いない。
 それから、「精密肘抜き&膝抜き法」も影響大だ。
 「膝抜き」は、レーシングドライバーの仕事を考えれば、当然役に立つよね。

クラゴン 押忍!

高岡 以前は、「肘抜き」と「膝抜き」は別々の講座だったんだけど、最近は一体化させたのは知ってるよね。あれは時間の使い方、つまりメソッドを指導する、私のリードの仕方、進行が上手くなったから、一体化したというのも間違いではないんだけれど、じつはそれだけが理由じゃないんだよ。
 要するに上半身と下半身、腕と脚というのは、あるレベル以上で使えるようになると、「四肢同調性」を起こすんだ。

藤田 「四肢同調性」というのは?

高岡 「四肢同調性」というのは、四足動物時代にできた脳の機能のことで、これを使わせないと、じつにもったいないことになる。
 要するに脚のパフォーマンスがある水準以上に良くなれば、腕のパフォーマンスもよくなるし、腕が良くなれば、脚も必ず良くなる関係性があるので、こうした関係性が起動する次元まで皆さんを引き上げてあげないと、トレーニングとしてもったいないだろ。
 「四肢同調性」というのは、人類が四足動物時代から数億年の年月をかけて作ってきた脳の優秀な機能なのだから、これを利用しない手はないじゃないか。

  • 2013年ニュルブルクリンクレースを語る
  • 「四肢同調性」は、人類が四足動物時代から
    数億年の年月をかけて作り上げてきた脳の優秀な機能だ

高岡 今回この鼎談で話題にしているのは、クラゴンのレーシングカーでのドライビングの話だけど、クラゴン自身も感じている通り、要するに脚の開発が進んでくると、腕のパフォーマンスにまで好影響が現れて、腕のトレーニングが進み、腕を上げてくると、脚も必ず良くなるんだよ。
 そうした領域まで、皆さんを持っていってあげないと、トレーニングとしてもったいないじゃないと思わないかい?

クラゴン もったいないと思います。

高岡 だよね。
 「四肢同調性」という、四足動物時代から何億年もの時間をかけて作ってきた脳の機能を使わないなんて、もったいないにもほどがあるからね。

「座り」が「術」になるために直接影響を与えたのは、「長座腕支え」と「坐骨モゾモゾ座り」

藤田 う~ん。何とも深いお話で……。
 ところで、今回の鼎談で最初の動画をご覧いただいたとき、「シートにきちんと座れるようになった」というお話がありましたが、あの「座る術技」、「座りのスキルの本質」の向上は、どのようなトレーニングの影響が大きかったとお考えですか?

高岡 「座り」が「術」になるために、直接影響を与えたのは、やっぱり「長座腕支え」だろうね。それから「坐骨モゾモゾ座り」。この二つは、そもそも座って行うことが前提だから、直接的影響という意味では、当然一番効果がある。
 ただ、「座る」というのは、臀部や坐骨だけの機能ではないからね。
 その坐骨を支えている腰や、背骨を中心とした体幹、あるいは反対に、一見関わりが薄いようにも見える太腿や股関節など、さらにはもっと無関係に思える、膝から先なども、すべて「座りの術技」に影響しているんだよ。

  • 2013年ニュルブルクリンクレースを語る
  • 「座りの術技」には、臀部や坐骨だけでなく、腰や体幹、
    さらには太腿や股関節、膝から先などもすべて影響している

クラゴン 全部ですか。

高岡 そう全部。
 種目でいえば、モーターレーシングだって、座ることは重要な術技なんだけど、レーシングドライバー自身は、「座る」=「術」と考えるほど、その重要性を認識している人は少ないんじゃないかな。

藤田 座ることを「術技」として追及しているドライバーは、間違いなくごく稀な存在といっていいでしょうね。

高岡 その点でリードしているのはピアノだね。ピアノの世界では、すでに座ることの重要性が、種目全体の共通認識として捉えられているからね。
 ピアニストたちは、椅子にどう座るかということを、けっこう深く考えているんだよ。

クラゴン へ~~。

「座る技」に長けている人でないと、いいピアニストにはなれない

高岡 もちろん彼らが認識しているのは「座る」=「技=スキル」だから、残念ながら「術」までは行っていないけど、人によって上手い・下手、深い・浅いといった違いがある程度認識されていて、それぞれのピアニストも、その人なりに座り方をかなり気にしているんだよ。
 事実、この「座る技」に長けている人でないと、いいピアニストにはなれない傾向はハッキリしているからね。

藤田 そういうものなんですか……。

高岡 ピアノを本格的に学んだことがない人には、なかなかピンとこないかもしれないけど、演奏中のピアニストは、座りながらとはいえ、じつはかなりの軸の移動があるものなんだよ。

藤田 たしかにけっこう左右に動いていますし。

高岡 左手で弾いたり、右手で弾いたり、体幹が左寄りで弾いたり、右寄りで弾いたり、両手を広げたり、とくにはクロスさせたりする、すべての動作にしたがって軸が動くし、さらに言えば、鍵盤の黒鍵は白鍵よりちょっと奥まったところに並んでいるでしょ。だから、白鍵側から黒鍵側にちょっと指が移動しただけでも、意外なほど軸が変わるんだよ。

クラゴン なんと!

高岡 そうしたピアニストたちの軸は、当然、移動する軸=ダイナミック・センターなので、複雑になるし、しかも中央軸だけでなく、側軸も含めて、全部が運動しているので、そのコントロールが容易じゃないのはわかるだろ。

クラゴン・藤田 はい。

高岡 運動総研の講座でいえば、「トップ・センター」と「サイド・センター」と「ダイナミック・センター」の3つが重なり合っているわけだからね。

  • 2013年ニュルブルクリンクレースを語る
  • ピアニストたちの軸は「トップ・センター」「サイド・センター」
    「ダイナミック・センター」の3つが重なり合って運動している

高岡 それだけ考えても、非常に複雑な使われ方だというのがわかるでしょ。
 だったら、世界のトップピアニストが、これらについてどれだけ開発が進んでいるかというと、私から言わせてもらえば、申し訳ないけど、まったく未開発もいいところなんだよね。
 ここで問われているのは、座ることと体幹全体の運動と、それに腕脚手足から指先の運動までもすべて関わっているわけだ。そうした運動を「座る」という側から見ていくと、世界のトップピアニストでも、100点満点で10点も行けばいい方だろうね。
 これは罪深いことなんだよ。
 というのも、世界のトップピアニストは…………。

パフォーマンス分析編(8)へつづく>>





▲このページの先頭に戻る