2012年ニュルブルクリンクレースを語る【特別編】 高岡英夫×クラゴン×藤田竜太鼎談
【ニュル鼎談特別編】 祝!クラゴン VLNニュルブルクリンク耐久レースクラス優勝記念
『月刊秘伝「ゆるとは何か?」』特集 取材秘話 第1回 (2012.7.17 掲載)
この「究極の身体&究極の意識」サイトでは、すっかりおなじみのクラゴンが、6月23日にドイツ・ニュルブルクリンクで開催されたVLN4時間耐久レースで、日本人の夢ともいえるSP4Tクラスで優勝を成し遂げた。
- VLNニュルブルクリンク耐久レースで優勝したクラゴン
過去、日本人として誰も到達することのできなかった偉業を達成
- 今年クラゴンが乗ったのは、昨年のポルシェをさらに上回る
ハイパフォーマンスマシン“アウディTT-RS”
そのハイパフォーマンスの背景には、日ごろの弛まないゆるトレーニングはもちろんのこと、月刊秘伝7月号の特集「ゆるとは何か?」の実践検証編で紹介された、高岡英夫直々の「手首プラプラ体操」と「足ネバネバ歩き」の影響が見逃せない。
そこで今回は、大好評のニュル鼎談の特別編として、4月半ばにツインリンクもてぎ(サーキット)で行われた、実践検証編の取材終了直後の鼎談メンバーによるマル秘ディスカッションの様子をここに公開することにした。
- 月刊秘伝7月号の特集「ゆるとは何か?」実践検証編の
舞台となった“ツインリンクもてぎ・スリパリーコース”
手首プラプラ体操を精緻に深く開発していくと、大脳新皮質だけでなく小脳から大脳基底核までもが働きだす
※ツインリンクもてぎ アクティブ セーフティ トレーニング パーク教室にて 高岡英夫が差し入れてくれた、柏餅を食べながら……
高岡 みんな、取材と撮影お疲れさま。
一同 ありがとうございました。
高岡 それにしても、この柏餅はうまいな~。このサーキットのそばの道の駅で買ってきたんだけど、ホントにうまいぞ!
一同 いただきま~す。
藤田 ところで、今回ご指導いただいたゆるトレーニングは、手首プラプラ体操と足ネバネバ歩きの2種類だけでしたが、たった2種類の体操で、あれほどまで違いが出るとは驚きました。
高岡 うん。今日、ここでクラゴンに指導したのは、ただの手首プラプラ体操・足ネバネバ歩きではなく、その裏メカ、裏テクを駆使したものだからね。ただ、裏メカ、裏テクといっても非公開のものではなく、「徹底手首プラプラ全脳開発」などの講座で指導している内容なんだけどね。
藤田 それにしても、140種類もあるといわれるゆる体操の中から、どうしてこの二つの体操だけをチョイスされたのでしょうか? その狙いと理由をお教えいただけないでしょうか。
高岡 理由と狙いはいくつかあるんだけど、まず、手先だけをゆるませて、何になるんだっていう疑問に答えたかったんだよ。
今日はドライビングだったけど、もうひとつ剣術・杖術編の取材も控えているわけだよね。で、このどちらの種目も、手でステアリングなり、剣なり、杖なりを持つ必要があるんだけど、当然のことながら、いずれも手だけで何とかなるものでもないよね。
クラゴン おっしゃる通りです。
高岡 だからこそ逆に手首だけを徹底的にゆるめることが、全身にどんな影響を与えるかを知らしめたかったんだよ。
これはみんなにもぜひ知っておいてもらいたいんだけど、人間の手というのは、もっとも大脳新皮質でコントロールできる部位なんだよ。脳の支配領域も、ずば抜けて広いしね。
だけど今回のように精緻に深く開発していくと、大脳新皮質だけでなく、小脳から大脳基底核、つまり生物の進化の歴史でいえば古い時代からある脳も働きだすようになるので、そのことをみんなに知ってほしかったんだな。
クラゴン 新旧両方の脳を手首プラプラ体操で開発できるというわけですか。
高岡 とくにダジャレ運動法が効くんだけどね。
でももっと大事なことは、クラゴンのように身体運動の専門種目で向上しようと思っている人が、本当の意味で手の開発を望むのなら、少なくとも今回行ったレベルでの深さと精度をやらないと意味がないってこと。
そういう意味で、手首プラプラ体操というのは、まさにゆる体操の入り口の体操なんだけれども、その手の開発をゆるがせにしては、その先に進めないんだよ。
藤田 それはいいお話を聞くことができました。
- 身体運動の専門家が取り組むレベルの手首プラプラ体操とは?
この後の検証実験でその驚くべき効果を目の当たりに!
人間の脳の発達理論から考えても、手を通して全身の身体運動能力を高めることができるのは明らか
クラゴン ボクも今日の検証実験で、そのことをすごく実感しています。
高岡 今日のクラゴンならわかるだろ?
剣術などでも「手のうちの締まり」「掌中の作用」といった教えがあるぐらいだから、手の握りが大事なことはわかっているわけだ。でも、わかっているだけでそれ以上のことは、していないんだよね。
けっきょく「手のうち」「掌中」も剣術全体の一部として、無意図的な開発をしているだけで、意図的、計画的に開発する例は、ほとんどないといってもいい。
せいぜい、型をやったり、基本をやったりする中で、なんとなく徐々に進歩がみられる程度で、ときどき師匠から「うん、お前は最近少し手のうちがわかってきたようだな。だから、技の冴えが違ってきたぞ」といったアプローチに、どうしても留まってきたのが現実でしょ。
でも、それじゃああまりにももったいないと思わないかい?
藤田 たしかにもったいないですね。
高岡 だから私は、擦り系と揺動系を組み合わせた「手首プラプラ体操」という非常に導入しやすい体操を開発して、公開、指導をはじめたんだ。
ゆる体操というのは、デスクワークがメインのビジネスマンやOL、家庭の主婦、さらには高齢者といった人たちにとってもとっつきやすくて効果があって、なおかつ、武術家やクラゴンのようなスポーツ選手といった身体運動の専門家が取り組んだときにも、いくらでも伸びシロがあるように、最初から工夫しつくして開発されたメソッドなんだよ。そこをまず抑えておいてほしいね。
したがって「手首プラプラ体操? なんだこんなもん。そりゃ、手首をプラプラさせりゃ、少しはゆるんでリラックスぐらいできるわな」といった程度のものでは、決してないということを、ここで強調しておきたいね。
クラゴン 今日教わった内容だけでも、ものすごく深いものがあるなって実感がありましたから……。
- 手首プラプラ体操だけで、驚くほどの変化を実感したというクラゴン
高岡 人間の脳の発達理論から考えても、手を通して全身の身体運動能力を高めることができるのは明らかだからね。
「末端中心開発」と「中心末端開発」は、まさにクルマの両輪で、相互の優劣はなく、どちらも身体開発の王道といえるもの
高岡 つまり、脳の他の深い部分にも必ず良い影響を与えることができるっていうこと。これを私の理論で「末端中心開発」っていうんだ。文字通り枝葉末節の、末端から中心に影響を与えて開発していってしまうメソッドで、「手首プラプラ体操」はまさにその「末端中心開発」の代表格といっていい。
そしてその「末端中心開発」の対になっているのが「中心末端開発」で、これは中心を開発していくことによって、それが末端にまで影響を与えていくメソッドのこと。
武術を例にすると、けっきょく大地と足裏が接触していて、手は剣だったり、相手の身体をつかんで操作、表現しているわけだ。そうなると圧倒的に関係性が深いのは、手と足ということになるよね。その手と足というのは、ずばり身体の末端そのものであるわけだけど、それを根本から改善していくにはどうすればいいか。当然、身体の中心である背骨に働きかけて開発していくことが必要になる。
藤田 ということは「中心末端開発」の方ですね。
高岡 そういうこと。「末端中心開発」と「中心末端開発」は、ちょうどベクトルが正反対なんだけど、その両方とも人間には開発の余地がいくらでもあるんだよ。この二つはまさにクルマの両輪で、唇歯輔車の関係で、相互の優劣はなく、どちらも身体開発の王道といえるものなんだよ。
ここがよく誤解されているというか、皆さん見落としているところでしょ。なので、どちらも王道だということを、この機会に是非とも理解してほしい。これは本当に肝要なことだからね。
しかもこういうふうに、揺動緩解や擦動緩解、つまりゆすってゆるめたり、さすってゆるめたりという、見かけ上、非常に簡便な動作でもって、いくらでも身体を開発し、能力を高めていける余地がある。このことも重要なんだよ。
「さすって、プラプラするだけ? そんなの簡単じゃないかよ」と思うのはけっこうなんだけど、簡単=リターンも小さいと思ってんじゃないの、普通の人は。
クラゴン 絶対そう思っていると思います。
合理的に考えて、コストパフォーマンスを最大化するように生きていかないともったいない
高岡 そうだよね。でもインプットは非常に簡単な操作なんだけど、アウトプットは絶大な効果が得られるとしたら、そんなに素晴らしいものはないよね。
クラゴン その方が絶対にありがたいです。
高岡 もし、インプットが最初からすごく難しかったとしたら、そこから何かが得られるまで、ものすごく時間がかかるでしょ。そうなってくると、ある人はというか、多くの人が途中であきらめてしまうよね。
藤田 それでも厳しい修行にロマンを感じたり、厳しさにモチベーションを抱いている人っていますよね。
高岡 厳しくないと物足りなさを感じる人ってことだよね。けれどそれってどうなんだろう。おそらくインプットが難しいことが素晴らしいことなんじゃないか、という誤解があるんだろうね。
しかし、ここではっきりといっておくけど、人生には限りがあるし、人生はアウトプットが素晴らしくてナンボなんだよ。
したがってあくまでも合理的に考えて、インプットをより最小化して、アウトプットを最大化しなければもったいない。インプットに対するアウトプットの割合、つまりコストパフォーマンスを最大化するように生きていかないと、みんなもったいないよね。
とくに武術系の人たちを見ていると、みんなわりと純粋にひたすらに修行に打ち込んでいるからね。それだけ打ち込んでいる以上、得られるものが大きくならなければもったいないというか、悲劇だよ。
そうした思いがあったからこそ、今回は「末端中心開発」の代表である「手首プラプラ体操」と、「中心末端開発」系の「足ネバネバ歩き」をピックアップしたんだよ。
藤田 なるほど。今回取り上げるゆるトレーニングがこの2つのメソッドに絞られた理由がよくわかりました。
高岡 「手首プラプラ体操」は、簡単というより本当に簡便な体操だから、テレビを見ながらだってできるだろうし、仕事と仕事の合間にだってできるよね。どんな環境で暮らしている人でも、一日の中で取り組めるチャンスはいくらでもあるでしょ。
一方、「足ネバネバ歩き」は簡単に見えても、じつは大変運動量があるので、クラゴンのように身体運動の専門種目に取り組んでいる人なら、一日に15~30分、毎日必ず行う習慣にするといいよね。
そうすると、心肺機能を含めた、さまざまな身体運動のベースになる基本的な機能が鍛えられるからね。
- コース目の前の教室で手首プラプラ体操と足ネバネバ歩きに打ち込み、
「末端中心」と「中心末端」の両方のベクトルから身体を開発