ホーム > 【ニュル鼎談特別編】 祝!クラゴン VLNニュルブルクリンク耐久レースクラス優勝記念 『月刊秘伝「ゆるとは何か?」』特集 取材秘話 第2回

2012年ニュルブルクリンクレースを語る【特別編】 高岡英夫×クラゴン×藤田竜太鼎談


【ニュル鼎談特別編】 祝!クラゴン VLNニュルブルクリンク耐久レースクラス優勝記念
『月刊秘伝「ゆるとは何か?」』特集 取材秘話 第2回 (2012.7.31 掲載)



トレーニング前の1回目の走りが人間、2回目が運動能力の高い犬、ラストが野生のチーターやトラのような感じ

藤田 それにしても、今回の実践検証は予想以上にすごい結果となりましたね。トレーニングのビフォー・アフターで、1周38秒程度のコースのタイムが、最終的に2秒01も縮んでしまったわけですから。

 これは高岡先生も満足できるアウトプットだったと推察するのですがいかがでしょう?

高岡 インプットとアウトプットの関係でいえば、たしかに満足のいく結果だったね。

 トレーニング前の走りと、「手首プラプラ体操」を行った後の走りを比べると、「手首プラプラ体操」後の走りは、クルマが動物になったような印象だったよね。

藤田 たしかに、ブレーキング時のクルマの挙動が、よりダイナミックになりながら、安定感が増す方向で変化していきましたね。

高岡 それが「足ネバネバ歩き」の後の3回目の走りになると、いよいよ野生動物化してきたよね。

 私の印象を面白く喩えると、トレーニング前の1回目の走りが人間、2回目が運動能力の高い犬、ラストが野生のチーターやトラのような感じだよね。

クラゴン いや~、そんな風に見えたんですか。ボクは走るたびになんだか楽しくなる一方で、クルマから降りたくなくなっていったんですけど(笑)。

藤田 う~ん。それにしても3回目の走りは、大げさにいえばちょっと神がかり的でしたよね。

高岡 まあ確かにすごいパフォーマンスだったよ。




1回目[トレーニング前]  タイム:38秒39



2回目[手首プラプラ体操後]  タイム:37秒70
1回目[トレーニング前]とのタイム差 -0秒69



3回目[足ネバネバ歩き後]  タイム:36秒38
1回目[トレーニング前]とのタイム差 -2秒01


 スリパリーコースとは、ツインリンクもてぎのASTP(アクティブセーフティ トレーニングパーク)にあるドライバートレーニング施設のひとつ。1周230メートルで、図のAの部分が濡れた黒タイルで、ちょうど圧雪路を普通のタイヤで走ったときの摩擦係数(0.2)。B区間が碁石の原料を使った玉砂利で、摩擦係数はおよそ0.5。C区間が格子状の鉄板をひいたグレーチングで、マンホールの蓋ぐらいの滑りやすさ。D区間が普通のアスファルトでドライなら摩擦係数0.8~0.9、ウェットなら0.4~0.6。E区間が白タイルで、圧雪路をスタッドレスタイヤで走ったときの摩擦係数(0.4)に相当。

 このように滑りやすさが区間によって全く異なるので、ドライバーは路面状況に応じて瞬時に限界を見極め、スピードをコントロールし、タイヤが滑るギリギリのところだけを上手に使えないとタイムが出ない。非常にアジャスト能力が問われる難コースだ。

 なお一般のドライバーでもASTP主催のプログラムに参加すれば体験できる。

問い合わせ・取材協力
㈱モビリティランド ツインリンクもてぎ
http://www.twinring.jp/astp/info/(外部サイトへリンク)

  • ニュル鼎談特別編
  • スリパリーコース図

クラゴン たしかにタイムは伸びましたけど……

藤田 1回目、2回目は小雨だったけど、3回目は本降りだったじゃないですか。そう考えると、条件は3回目が一番悪いはずでしたからね。

高岡 3回目のときは、散水していない本来ならドライなはずのスタート地点にも、水たまりができてしまっていたしね。

クラゴン 3回目のアタックでは、条件が悪くなったためか、失敗したというか、タイヤを滑らせ過ぎたかなって思った周もあったんですが、あとでタイムを見てみると、ボクが失敗したという周もあんまりタイムをロスしていないというか、そんな周でもじつはトレーニング前にアタックしたときのベストタイム以上のタイムが出ているんですよね。

 あればびっくりしたというか、面白かったです。

トップ選手は、1周1周どころか、コーナーごとに毎回チャレンジし続け、限界領域をどこまで拡大できるかを試みる

高岡 落ちなかったね~。

藤田 3回目のアタックは、ワーストでも38秒37でしたから。

高岡 だから少々スリップしても、タイムロスしていなかったってことだよね。

クラゴン それが野生化するってことなんですかね。野生というのは失敗したら終わりですから……。

高岡 そうなんだよ。野生の場合、失敗したら食べられちゃったり、エサが取れなくて死んじゃうわけだから、どちらにしても失敗は許されないからね。この一周はちょっと失敗して遅かったから、もう一周、といっても、野生ではそのもう一周はないんだよ。

クラゴン そのことを何か、今回つかめたような気がします。

高岡 でもそれって、頭で考えながら走っていたわけじゃないよね。

クラゴン はい。頭でそんなことを考えていたらとても走れません。

高岡 ということは、ずばり大脳基底核、小脳系が働いていたってことだよ。

クラゴン 考えてタイムを稼ごうとすると、1周だけなら上手くいっても、アベレージは落ちてしまうんですよね。

高岡 それはそうだよ。とてもじゃないけど、人間が顕在意識で考えるときの情報処理能力では遅すぎて、クルマの動きについていけなくなるからね。

  • ニュル鼎談特別編
  • 大脳基底核、小脳系が働き出すと顕在意識では処理できないような
    驚異的なドライビング・テクニックが実現可能に

クラゴン ドライビングが上達してくる過程でいうと、まずまぐれかもしれないけど一発のタイムが出る。次にそこそこのタイムで安定するという段階になるんですけど、それだけじゃプロの一流ドライバーとは言えないわけで、ベストラップを連発できる再現性が高くないと、ちょっとお話にならないわけで……。

高岡 陸上の短距離でも、スキーのダウンヒルでも、もちろん自動車レースでも、コンマ数秒を争っているわけだから、そこそこのタイムで安定というのと、トップタイムが出せるという価値は全然違うよ。

 トップの選手というのは、1周1周というか、コーナーごとに毎回チャレンジし続けていて、限界領域をどこまで拡大できるか試みているからね。

クラゴン ボクも隙あらばいちいちパフォーマンスの最大化を狙って走っています(笑)。

高岡 そうだよね。つまり「このへんだな」ってのはないはずなんだよ。

クラゴン おっしゃる通りです。だから、今回の実験でも毎周こうしたらもっと速くなるんじゃないか、ああしたらいいんじゃないか、と色々試し続けていたんですが、それでもあんまりタイムがばらつかなかったのが面白かったというか、興味深い結果でしたね。

高岡 (笑)。ということは、また別の論理でいうと、いまよりさらにうまくなる余地が、必ず残っているということだよね。

藤田 う~ん。たしかにそういうことになりますね。

クラゴン おっしゃる通りです。

最初に予想以上にいいタイムが出てしまったので、ゆるトレーニング後にタイムが縮まらなかったらどうしようと思っていた

高岡 たしか3回目のアタックのとき、ものすごいブレーキングがあったよね。

藤田 クルマの挙動が、それこそネコ科の野生動物がグッと身を沈めて、獲物に飛びかかる寸前の姿勢のようになったときがありました。あれが今日のベストラップの周でした。

高岡 ホントに不思議というか、すごい姿勢だったよ。クルマが「シュン!」と一瞬して沈み込んで、ものすごい短距離で一気にスピードを落とし、それで滑りやすい路面に入っていったからな。

クラゴン そのブレーキは、ボクもよく覚えています。「あっ、この距離でここまで安定させたまま速度が落とせるんだ」って、気づいた周でしたからね。

藤田 ちょうどその後、秘伝誌の編集者の方を隣に乗せて同乗走行をやってもらったけど、体重70kgの大人が横に乗ったのに、ブレーキングではみ出したりしなかったってのは、すごいよ。普通は慣性が増した分、最初のブレーキなんてちょっと余らすか、足りなくなるかのどちらかなのにね。

クラゴン いや~、そこのところは完全に無意識でアジャストできたみたいです。このASTPのスリパリーコースというのは、かなり特殊なコースでして、じつはスポーツカーほどきちんと走らすのが難しいんですよ。

 先ほど、秘伝誌の編集者の方が、現地でレンタルしたホンダ・シビックで試走されましたが、じつはあのシビックの方が、同じ技量のドライバーが乗ったとすると、ボクの乗ったスポーツカー(ホンダ・S2000)より、このコースでは断然走らせやすくて、タイムだって速いんです。

 さらにいうと、このコースを最も速く走れるクルマは、軽トラックの4WDで、しかもスタッドレスタイヤを履いている仕様なんですよ(笑)。

高岡 なるほど。車体が軽くて、4WD+スタッドレスで滑らないからか。

クラゴン そうなんですよ。自分でいうと自慢みたいでいやなんですが、このコースをS2000+スポーツタイヤという組み合わせで走った場合、1回目のアタックで出した38秒39だって、そうとう速いタイムなんです。

高岡 そうりゃそうだろう。もっと自慢してもいいんだよ(笑)。プロに自慢してもらわないと、素人にはタイムの価値がわからないからね。

クラゴン じゃあ遠慮なく(笑)。じつはこのコースで、年に数回、ボクが主催しているドライビングスクールも開催しているんです。そのスクールのときは、参加者の愛車にボクが乗って、お手本を見せたり、アドバイスをするんですが、そうしてこれまでここで乗ってきた何台ものクルマと比べても、今日乗ったS2000というのはかなり滑りやすくて、コントロールの難しいクルマでした。だから、1回目の38秒39も思ったよりはいいタイムが出たなというのが、正直な感想でした。普通は40秒を切れないですから。

 だから、最初に予想以上にいいタイムが出てしまったので、ゆるトレーニングをやった後に、タイムが縮まらなかったらどうしようと心の中で思っていたぐらいでして(笑)。

  • ニュル鼎談特別編
  • トレーニング前後で、1周38秒程度のコースのタイムが、
    最終的に“2秒01”も縮んでしまった!

藤田 先ほどタイムの価値…という話が出ましたが、モータースポーツに縁がない人だと、そのゆるトレーニング前に出したタイムが、どれだけ速いのか、ちょっとピンと来ないかもしれませんが、肝心なのは数字というより、クラゴンが最初のアタックから、プロドライバーの名誉にかけて、きちっとタイムを出しに行ったということですよね。

高岡 そういうこと。

▲このページの先頭に戻る