2010年ニュルブルクリンクレースを語る-Part1 高岡英夫×クラゴン×藤田竜太鼎談
- 高岡英夫
運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、人間の高度能力と身体意識の研究にたずさわる。オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」を開発。
- クラゴン
- レーシングドライバーとして世界最高峰のサーキット、ドイツ・ニュルブルクリンクでのレースで活躍するなど、専門筋をうならせる傍ら、ドラテク鍛練場クラゴン部屋を主宰し、一般ドライバーの運転技術向上にも取り組む。「クラゴン」は日本自動車連盟に正式に登録したドライバー名。ゆるトレーニング歴は約10年。2010年9月のVLNにポルシェでの参戦が決定。
- 藤田竜太
- 自動車体感研究所(ドライビング・プレジャー・ラボラトリー)所長。自動車専門誌の編集部員を経て、モータリング・ライターとして独立。90年代は積極的にレースに参戦し、入賞経験多数。ゆるトレーニング歴も10年以上で、某武道の指導者という顔もある。
最終回 貫くセンター、目覚めよ細胞! “クラゴン”無心のフリードライビング(8) (2010.10.26 掲載)
ゆるトレーニングだけで、プロになれて、本場ドイツでも通用するドライバーに!
クラゴン とくにボクのような、もともと他人から才能があるドライバーだと思われてはいなかったドライバーが、高岡先生の考案したゆるトレーニングをやっているだけで、プロにもなれて、さらには本場ドイツでも通用するドライバーになれたという事実は、ボク自身はもちろん、多くの人にとって希望だといえるんじゃないでしょうか。
ウソ偽りなく、ボクはゆるトレーニングだけで、運転が上手くなったドライバーなんですから。
高岡 本当だよね。速くなるし、ハンサムになるし、健康になるし、痩せないし!?
一同 (爆笑)。
高岡 でも、クラゴンが痩せないのは理由があるんだよ。
なぜなら、クラゴンにはその脂肪が必要なんだから。以前の鼎談(2009年ニュルブルクリンクレースを語る 第6回を参照)で説明したとおり、クラゴンの身体にたっぷりとついているその脂肪は、単なる脂肪ではなく、ファット(fat)DS、つまりドライバーにとってもっとも必要な前後左右のG変化を感じるセンサー、脂肪センサーなのだから。
その脂肪センサーを武器にしている以上、いよいよ痩せることはないだろうね。
- チームメイトと入賞の喜びを分かち合うクラゴン。
脂肪センサーには、酒と笑いが欠かせない!?
藤田 高岡先生の著書に「からだには希望がある」という本がありますが、クラゴンの場合は「カラダには、脂肪がある」ってワケですね(笑)。
高岡 はっはっはっは。上手いこというね~(大笑)。
クラゴン もう笑うしかありません(苦笑)。
藤田 じゃあ、クラゴンの自叙伝というか、半生記を書くときのタイトルは、「カラダには脂肪がある」ということで(笑)。
高岡 その本ができたら、私が帯に推薦文を書いてあげるよ(笑)。
「ブリリアントな走り」の秘密は、支点の揺動化にある
藤田 それにしても面白いもんですよね。すでに紹介しましたが、今回のクラゴンの走りっぷりをみて、ドイツ人のマネージングディレクターは「ブリリアントな走り」と評しているわけですよ(この鼎談の第3回を参照)。「ブヨンブヨンの走りだった」というのならわかるんですが(笑)、「ブリリアント」という言葉で、「走り」のことを表現するのをワタシはいままで聞いたことがなかったので、ちょっと戸惑ってしまいました。
「ブリリアント」って、ダイヤモンドの研磨法のひとつだったと思うんですが……。
高岡 直訳すると「輝ける」とか、「最高の」といった意味で使うよね。
クラゴン 「輝ける」はともかく、「最高の」といった意味まであるんですか。
高岡 彼らからすると、やっぱりそれだけの走りに見えたんだろうね。
藤田 ドイツ人のいうことなので、ワタシには真意はわかりませんが、ニュルの真っ暗闇の森の中で、それだけクラゴンの走りは最高に輝いていたってことですかね。
クラゴン 夜中なので、ヘッドライトが輝いていたのはたしかですが(笑)。
- 真夜中でも白熱したバトルが展開され、
観客の目を釘づけにするニュル24時間レース
高岡 いや、あれだけピタ~と安定して、何事もないかのように、予想をはるかに上回るペースで周回されたら、「ブリリアント」に見えても不思議はないだろうよ。
クラゴン う~ん。でもたしかにシフトチェンジのときに、肋骨がゆるんで残った感じのまま、シフトレバーを引いたり押したりできたのは、いままでなかったフィーリングでしたが……。
高岡 それは支点が揺動化してきた証拠だよ。
ところで「ブリリアント」といえば、今回の入賞トロフィーは立派だね~。
- 重厚感あふれる、ニュル24時間レース6位入賞のガラス製トロフィー
クラゴン これはガラス製なんですよ。しかもかなり特殊な形をしているので、ドイツから出国するときに手荷物検査で引っかかって、カバンを開けさせられました。
税関の検査官も、当然ニュル24時間レースのことはよく知っているので、ニュルのトロフィーだって説明すれば、すなおに通してもらえるかと思ったのですが、どうもボクがレース関係者というより、入賞したレーシングドライバー本人であるというのが、なかなか納得してもらえなかったようで……(苦笑)。
藤田 「スモーレスラーだ」ってことなら、すぐにわかってもらえたんでしょうが(笑)。
高岡 でも、この調子で精進を重ねて、ニュルでどんどん活躍すれば、フランクフルト空港の税関職員も、「レーシングドライバーのクラゴンだ」っていう認識に変わってくるはずだよ。
そういう意味で、今後がホントに楽しみになってきたね。
史上最高にゆるんだ走りを体現すれば、必ず結果はついてくる
高岡 ちなみに次のレースはいつだっけ?
クラゴン 9月25日です!
(※ この鼎談は8月25日におこなわれた)
高岡 今度はいよいよ、ポルシェ911の参戦だしね。
私からアドバイスできるのは、ただ一言。「史上最高にゆるんでドライビングすること」これに尽きるね。
クラゴン ハイ! ポルシェでもドイツのレーシングチームの面々が魂消る(たまげる)ような速さを見せつけることができれば、来年以降のチームとの交渉が、まったく違ったものになるでしょうから、いままでどおり何も考えずに精一杯ゆるんで走ってきます。
高岡 そう。とにかく今までで一番ゆるんだ走りを体現すること。そうすれば結果は必ずついてくるんだから。
クラゴン ホントにどこまでゆるめるかが課題ですね。ニュルに行くたびに「過去、これ以上ゆるんでレースに出たことはない」という状態に仕上げて、レースに臨んできたつもりなんですが、今回もゆるみ方の自己ベストを更新してドイツにいけるよう努力します。
高岡 クラゴンのポルシェへのチャレンジまで、あとちょうど1ヶ月あるから、この1ヶ月でどれだけゆるめられるかが勝負だな。
- いかにゆるんでポルシェ911GT3をドライビングできるかが勝負のカギ
クラゴン そうそう、勝負といえば、24時間レースのときは、先生の『宮本武蔵はなぜ強かったのか?』を持参して、飛行機の中や、練習走行の合間など、ヒマさえあれば目を通していました。あれは予想を越える効果がありましたね。読んでいるだけで、センターも強化されてくる気がしましたし、ボクがいうのもなんですが、勝負前に読むには、最良の書だと思います。
高岡 それはよかった。9月にポルシェでレースに出るときも、ぜひカバンに入れてもっていってもらいたいね。
クラゴン もちろんです。必ずいい結果を出して戻ってきますので、ぜひまたこうしてご報告させていただく機会を設けてください。
藤田 今回のVLNは4時間耐久レースなので、クラゴンひとりの活躍が最終結果にダイレクトに結びつくとは限らないですけど、どこまで「いい走り」ができるか。それが一番肝心なところですね。
高岡 私もクラゴンからの吉報を首を長くして待っているので、ゆるみきって、ポルシェとニュルを攻略してきてくれたまえ。
クラゴン 了解しました! お任せください(笑)。
●●番外編 ポルシェへのチャレンジに向けて●●
自者中心運動構造の人には乗りにくいが、ゆるんで他者中心運動構造になってくれば速く走れる“ポルシェ911”
藤田 それにしても、いよいよポルシェ911でニュルを走るんですね~。
ポルシェ911というクルマは、むかしから特殊だっていわれてきましたが、別にポルシェ専用の特殊なテクニックがいるわけではないんです。ただ、ある種のクセがあるのは確かなので、そのクセに振り回されると悪戦苦闘するかもしれません。クセはクセで受け入れて、逆にそれをメリットとして活用できれば、速く走れるのに……。
けっきょくポルシェで悪戦苦闘する人は、他のクルマで身につけた自分の今までの乗り方に固執して、身心が固まっていくんでしょうね。
だから、ゆるんでいれば大丈夫。
高岡 私も元ポルシェ・オーナーだからわかるけど、たしかに自者中心運動構造の人には乗りにくいクルマだろうね。一方、ゆるんで他者中心運動構造になってくれば、あれだけできのいいクルマはなかなかないよ。
藤田 そういう意味では、ゆるんだ人がポルシェに乗ると、より身心がゆるんでいき、逆に固まった人がポルシェに乗ると、より身心も固まっていく。そういう特性がポルシェ911というクルマにはあるかもしれませんね。
クラゴン なんか試されている感じですね。
高岡 まさに試されているんだよ、いろいろな意味でね。
- 耐久レースで圧倒的な強さを見せるポルシェは、
世界で一番“人間通”の自動車メーカーといえる
藤田 さっきの高岡先生の話ではありませんが、ワタシは、ポルシェって世界で一番“人間通”の自動車メーカーだと思っているんですよ。シートやステアリングから伝わってくる各種インフォメーションが豊かで、コンマ数秒先のクルマの挙動が読めるように、読めるように、と工夫を凝らしているんです。
だから、ポルシェはスプリントレースも強いけど、それ以上に耐久レースになると圧倒的な強さを見せるわけです。人間の本質力がわかっているエンジニアが、人間(レーシングドライバー)に優しいクルマを作らない限り、耐久レースの王者の名を、ほしいままにはできなかったでしょうから、ポルシェはやはり相当“人間通”のメーカーなんですよ。
だから、「ポルシェって、こういうふうに考えているんだ」というのにドライバーが気づければ、どんどんゆるんでいけるはずだと思うんですが……。
もっとも、ここまでトレーニングに打ち込んできているクラゴンが、ポルシェの真意を読めずに、ポルシェの厄介な点だけに気を取られ、固まってしまうということは、よもやないでしょうけどね(笑)。
クラゴン いや~、いろいろありがとうございます。でもボク自身は、次はポルシェといっても、何にも心配していないんですが(笑)。
ルノークリオの2倍のパワー&最高速280km/h台のポルシェで、ゆるトレの成果を試す!
藤田 たのもしいね~、さすがだよ。ポルシェならではの特性云々というのを抜きにしても、ルノー・クリオが205馬力だったのに対し、911GT3は市販モデルでも415馬力あるから、パワーはおよそ2倍でしょ。最高速も280km/h台は出るだろうし、ラップタイムは……。クルマがここまでハイパフォーマンスになると、キャリアのあるドライバーだって、普通は心配になるステップアップですけどね。
クラゴン よく考えると、まるっきり心配していないというのも、われながらおかしな話ですね~。さすがに300km/h近く出ているときに、クルマにトラブルが発生すると、一歩間違うと死んじゃいますし……。でも、クルマさえまともなら大丈夫です!
藤田 ポルシェの機械としての信頼性はバツグンですが、それでもF1やその他の純粋なレーシングカーと違って、市販車ベースのレーシングカーですからね。
クルマって、120km/hのところにひとつの壁があって、次が大体160km/h。そして180km/hぐらいが大きな壁で、そこから先は10km/h刻みでリスクがどんどん増してきます。さらに250km/hを超えると、もうひとつ次元が変わってくるので……。しかもコースがニュルですし。
クラゴン ボクもレーシング・ポルシェの経験はゼロですが、ゆるトレーニングの成果を試すのに、むしろ願ってもないチャンスだと思っています。もし今度ポルシェに挑戦して、通用しない部分があれば、帰国してからその部分の克服をテーマに、さらにゆるトレーニングに打ち込んでいけばいいわけですから。
ただ、クルマのメンテナンスが行き届いていないと、余計な仕事が増えてしまうんですけど(笑)。
もっとも、今回ポルシェで走るシュマーザルというチームは、かなりしっかりしているチームですので、クルマはバッチリ整備されていることでしょう。
藤田 頼もしい。でも、チームがクラゴンを認めれば認めるほど、仕事を任されるようになるからね。
実際、24時間レースでも、クラゴンが最後に乗り込むときに、交代するそれまで乗っていたドライバーから、「もうブレーキパッドがない(回転しているブレーキローターを挟み込む、ブレーキの摩材の残量がなくなってしまったという意味)」っていわれて、そのままコースに出て行かされたし(笑)。
クラゴン メカニックにならともかく、これから運転するドライバーに「もうブレーキパッドがない」っていわれても、「じゃあどうやって止まるんだよ」って感じですよ。
けっきょく何とかしましたけど(笑)。
高岡 (大笑)しかしすごい話だよね、漫画じゃないんだからね。まあ、ニュルでポルシェなんてシチュエーションだったら、一筋縄でいかなくてある意味当然なんだよね。
でも、私はぜんぜん心配していないし、クラゴンが24時間レースのとき以上に活躍してくれると確信しているよ。
きっと、次回の鼎談も今回以上に盛り上がるだろうから、この連載を読んでいてくれた皆さんも私たちと一緒に、大いに期待していてください。
ー了ー