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地球・人類にやさしい「ゆる」という思想

地球・人類にやさしい「ゆる」という思想

  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。

地球と身体にやさしい「ゆる」メソッドで自分を高める(2009.11.13 掲載)

※この記事は運動科学総合研究所発行の『2009年江戸合宿/大阪冬期集中講座のご案内』に掲載された高岡英夫のコメントを転載したものです。

これ以上「モノはもうたくさんだ」

私の常なる思想で、つくづくいやというほど思っていることに「モノはもうたくさんだ」というのがあります。これは皆さんもフッと我に返っていただければ、ほとんど全員の方に共感していただけるのではないでしょうか。

現在起きている経済不況もリーマンショックが原因であるかのごとく思われている節がありますけれど、事実はとんでもない話であって、もうこれ以上モノなんかいらないに決まっているではないかと言いたくなるほど、モノが作られ続けてきたこの半世紀の結果なんですね。

ですから私は、人間が身体を鍛えたり、改善していくことでより幸福な、充実した中身のある人生を送るために、身体を手をつけるにあたって、絶対にモノを作ってはいけないという考え方を持つようになったんです。

それは、モノを新しく作らずに身体を鍛え、また身体を通して脳を改善するという方法を、研究者が創造できるや否やにかかっているわけです。

その考え方に従って、私は過去に作ったトレーニングマシンやさらにはそれらを用いた方法を捨てたわけですし、一方でいえば、皆さんに現在楽しんでいただいているモノを使わない見事な身体および脳の改善のシステムというものを命懸けで作ってきたわけです。

そのような背景は、おそらく皆さんにも多くの共感を持っていただけると思いますので、まさに地球にとっても、人類にとっても最もクリーンな方法体系である、これら「身体能力開発」や「身体意識を鍛える」などで指導しているゆる体操をベースにした方法に、おおいに自信を持って、気持ちよく取り組んでいただけたらと思います。

コスト理論から言えば間違いだらけの「筋トレ」

またこれらのことを別の角度から事例を挙げてお話しましょう。厚生労働省が「健康日本21」という枠内で、筋トレが将来的な日本の長寿健康社会を維持していく大事な武器になるのではないかという仮説のもとに検証作業を続けていたのですが、じつはそれが破綻したんですね。その後、厚生労働省的は一度筋トレから手を引いて、メタボリックシンドロームに焦点を当てて、その改善というものを新しいテーマしようという方針でやっているわけです。

その厚生労働省が筋トレがダメだと判断した理由はいくつかあるわけですが、その中の一番大きい理由が金がかかるということ、二番目が参加者のほとんどが嫌がるということなのです。トレーニングマシンというものが筋トレの方針の流れに乗って、厖大に経費負担になるような結果になったのです。1台1,000万円もするような機械がきわめてわずかな人しか使えない、そういう非効率な状態であるにもかかわらず、必要だといって売り込まれるような事態が各所で起こったんですね。

そういった機械の製造・販売業者は、自治体などの公共団体に採用してもらうために、医師や大学の研究者に賄賂に相当する金品を渡し(1台につき100万円を越すこともあったといわれている)、その機械があたかも本当に良いものであるかのごとき宣伝をさせるという実例も多数あったと聞いています。それでそういうことの反省から厚生労働省は、筋トレはダメだという判断を下したわけです。

私は三重県の紀南地区の健康長寿計画の運動療法責任者を引き受けた時点で、ちょうどその頃このようなムダに厖大な金のかかる筋トレブームの真っ最中だったので、このことを多いに批判しながら、徹底的に逆方向に行く運動療法としてゆる体操を三重県に導入したわけです。私はいわば「機械的なハードウェアとしてのコストはゼロにすべきである、それが体操法の絶対用件である」と信念していたのです。

つまり、コスト理論からいえば、筋肉にストレスをかけて、その刺激によって筋肉細胞の増殖をはかるというのが筋トレの生理学的なアイデアなんですけれども、そのこと自体だけが正しくて、それ以外は現実の筋トレというのは間違いだらけなんですね。その間違いのもう一つを挙げれば、筋肉を硬縮させる方向に持っていくわけですから、当然筋肉に挟まれた関節にも硬縮状態の負荷がかかったままの状態になります。したがって筋トレをやっている間に関節に負荷がかかれば、終わった後にも負荷がかかり過ぎることになりますので、関節の状態が強健な人である場合にはまったく問題ないのですが、弱い人の場合にはそれ自体によって関節の障害を起こしてしまうのです。僕はこういうことはきわめて重要視しなくてはいけない問題なのだと思うのです。

というのは、筋トレという体操法によって、人を身体的な方向から救おうという目的性をもって取り組んだにもかかわらず、人を体の方向から壊してしまうと、そういうことは絶対あってはならないと私は考えているのです。つまり、「筋トレをやって10人の内8人は平気だったけれど、2人は故障してしまった」ということになれば、この方法はまったく話にならないというふうに考えなくてはいけないのです。

凄まじいまでの効果をもたらす「ゆる」メソッド群

そのように考えてきた私は、1990年の初頭から当然のごとく筋肉に負荷を与えて筋細胞の増殖、筋繊維の強化を図る意味での筋トレというものを、ゆる体操をベースにしたトレーニング法の中心として位置づけるべく研究、開発、およびデザインを重ねてきました

その方法については、私とごく限られた人々の間で繰り返し実験が行われて、その効果や安全性がコスト理論に適った方法だということが実証されてきています。それを受けて、この一年間の東京・大阪のMAXデイズでの身体能力開発において、先行的に予備段階として指導を行ってきました。

その皆さんの目覚ましく、凄まじいまでの効果を確認したうえで、いよいよ2009年12月の江戸合宿において本格公開しようということになりました。今後この「ゆる筋トレ」という方法は、ゆる体操をベースとした全トレーニング方法の中心にあたる極の一つとして、また大きな体系性をもった流れとして、今後公開、普及、指導を行っていきます。

またゆる体操そのものについては、その背景にあるメカニズムやテクニック、さらには科学的な原理というものをさらに一層広く深く明らかにするための講座として、ゆる体操のメカニズム第6教程「動作(生活・労働・武術・スポーツ等)とゆる体操」と第7教程「脳とゆる体操」をお届けします。

おおいなる知的興奮と、知識の深化拡大を図っていただければ、何よりもうれしく思います。(高岡英夫談)

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